夜になると、学校は完全な暗闇に包まれる――。
それが南スーダンの地方では当たり前の光景でした。
その現実を変えるきっかけとなったのは、
南スーダン出身のビジネスパートナーからの一本の相談でした。
彼はABEイニシアティブ生として日本で技術を学び、帰国後は自国で太陽光事業に取り組んでいます。
ある日、教育省で働く知人との会話をきっかけに地方の学校の現実を知り、「何かできないだろうか」と私たちに連絡をくれました。
こうして、南スーダンの学校に太陽光システムを導入するプロジェクトが動き始めました。
教育省との連携で実現した導入
南スーダンでは、電気にアクセスできない学校が約6,000校あるとも言われています。
対象校が非常に多いため、外部が独自に学校を選べば地域間の摩擦を生む可能性があります。
以前、ウガンダの地方行政の方から、アフリカの国々には多民族国家が多く、わずかな地域格差が争いの要因になることもあると聞きました。そのため、導入サイトの選定は地域の責任ある機関と連携して進めることが重要だと知りました。日本人にはなかなか気づきにくい視点かもしれません。
そのため、学校の選定は教育省と連携して進めることを目指します。
そこで、連携をお願いするレターを提出し、事務次官と何度もオンラインで協議を重ねながら、学校選定や導入支援に向けた協力体制を構築していきました。
最終的に教育省とのMOUのもと、導入は正式に進められることになりました。ただし、このプロジェクトは辻プラスチック社による自費での取り組みです。
そのため導入できる学校の数は限られ、今回は Primary School と Secondary School にそれぞれ1校ずつの導入としました。
首都から10分で電気が消える。それでも導入先は400km先だった
南スーダンでは、首都ジュバを少し離れるだけで電気がなくなります。
体感としては、10分も走れば無電化地域に入るという印象です。
教室に照明はなく、職員室にも電源はない。
それでも学校はあり、子どもたちは通い続けています。
それほど電気のない学校が多いにもかかわらず、
最初の導入先に選ばれたのは、首都から約400km離れた Mayom Primary School でした。
舗装路はほとんどなく、通信も途絶えるエリアが続きます。
移動には約8時間を要します。

車が止まり、夜が来た
導入先へ向かう途中、現地の導入チームが最も警戒していたのは、武装勢力による待ち伏せでした。
この地域へ向かうルートでは、そうした事案が発生することがあり、南スーダンでは特に注意すべきリスクの一つとされています。
チームメンバーは安全面を最大の懸念として慎重にルートを選び、道中も常に周囲に注意を払いながら進んでいたそうです。
しかし、実際に起きたのは予想していなかった車両トラブルでした。
通信もつながらず、周囲には民家もありません。
この地域は無電化のため、夜になると周囲は完全な暗闇でした。
同行していたスタッフは、待ち伏せだけでなく、夜になると野生動物に襲われるのではないかと本気で心配していたそうです。
現地のパートナーは、遠方へ移動する際には必ず車のメカニックを同乗させる必要があると以前から話していましたが、私たちも今回の出来事を通じて、その理由を理解することになりました。
結果的にこの日は野宿となりましたが、翌朝、無事に再出発することができました。


わずか500Wが学校を変えた
設置したのは、わずか500Wの太陽光システムです。
将来のバッテリー交換費用を考慮し、最低限必要なシステム構成にしています。
それでも、その小さな電気は学校を大きく変えました。
暗くなると何も見えなくなる教室に、初めて灯りが入りました。
それまで教員は暗闇の中でテストの採点をしていたそうですが、その灯りは教室を照らすだけでなく、教員のデバイスの充電や職員室の電源、防犯灯、さらに学校での充電サービスまで支えるものになりました。


特にPrimary Schoolの地域では、携帯電話などの充電式デバイスを充電すること自体が簡単ではなく、そのために遠方まで出向かなければならないこともあります。
一方、学校には将来のバッテリー交換費用を捻出するという課題がありました。
そこで、学校で充電サービスを始めれば、地域が抱える不便さと学校が抱える維持費の課題を同時に乗り越えられるのではないかと考えました。
学校は公的な機関ですが、教育省の許可を得て校内で充電サービスを開始しました。
需要は想像以上で、わずか1年で維持費の目処を立てることができました。
さらに導入から2年半が経過した現在も、バッテリー交換なしで安定稼働しています。
このシステムが、いかにバッテリーに負担をかけない設計になっているかがよく分かります。
これまでに導入されたソーラー設備の中には、短期間で機能停止してしまった例もあると言います。
その点、今回はバッテリーレス対応の機材に加え、日本で技術を学んだ南スーダン人による導入と保守体制を整えていることから、安心して運用できています。



小さな電気が広げた変化
2か所目の導入先となった Terekeka Secondary School は、ジュバから日帰りできる距離にありました。
最初の導入先の過酷さを経験した後だったこともあり、「日帰りできる」というだけでほっとしたのを覚えています。
この学校では、夜間学習用として充電式ランタンも提供しました。
明るさを調整できるため、夜でも勉強に困りません。さらに、ランタン内部のパワーバンク機能を使えば、スマートフォンなどのデバイスを充電することもできます。
灯りを届けることは、単に夜を明るくすることではありません。
学ぶ時間を延ばし、生活の不便を減らし、学校や地域の可能性を少しずつ広げていくことでもあります。
学校への導入をきっかけに、周辺地域からの相談も導入の依頼も増え始めています。
小さな電気ですが、その変化は確かに広がっていました。



終わりに
日本で学んだ技術を、自国の学校のために使う。
ABEイニシアティブで育った人材が現地で実装し続けていることこそが、このプロジェクトの一番の成果かもしれません。
