南スーダンの地方にある、長い暗闇
南スーダンの地方では、電気はまだ「当たり前に使えるもの」ではありません。
世界銀行のデータでは、2023年時点で南スーダン地方部の電力アクセス率は、わずか1.8%とされています。つまり、地方に暮らすほとんどの人々は、日常的に電気を使える環境にありません。
日が沈むと、長い暗闇の時間が始まります。
仕事を続けたくても明かりがない。携帯電話を充電したくても電気がない。体調が悪くなっても、明るい場所で人を迎えることが難しい。そんな現実が、今も多くの地域にあります。
だからこそ、人々は太陽光発電に大きな期待を寄せています。電線が届かない場所でも、太陽の光があれば電気を生み出せる。燃料を運び続ける必要もなく、日中の強い日差しを活かして、夜の暮らしや仕事を支えることができる。その可能性は、長い暗闇の時間を過ごす人々にとって大きな希望です。
私たちは以前、南スーダンの地方の学校に太陽光システムを導入した記録を紹介しました。夜になると真っ暗だった学校に明かりが入り、教室の照明、職員室の電源、教員のデバイス充電、防犯灯、そして地域の充電サービスまで、小さな太陽光システムが支えるようになりました。

その明かりは、学校だけにとどまりませんでした。
理容店、充電サービス、クリニック、そして家庭へ。電気を必要とする現場から、少しずつ相談が届くようになっていきました。
夜まで働ける明かりが、地域の仕事を変える

夜まで電気が続くことで、理容店は仕事帰りのお客様を迎えられるようになった。小さな明かりが、仕事の時間を広げていく。
南スーダンのある地方の理容店には、すでにソーラーシステムが入っていました。
それでも、夕方になると電気が足りなくなる。
一番お客様が増える時間に、営業を続けられないという悩みを抱えていました。
理容店にとって、夕方から夜にかけては大切な時間です。仕事を終えた人たちが訪れ、一日の中でもお客様が増える時間帯になります。それにもかかわらず、照明や機器を十分に使えなければ、店を開けておきたくても営業を続けることができません。
そこで現地パートナーは、既存の設備を確認し、すべてを新しく交換するのではなく、使えるものを活かす方法を考えました。辻プラスチック社の制御システムに変更し、ソーラーパネルを追加。バッテリーは既存のものをそのまま活用しました。
その結果、理容店は夜まで営業できるようになり大繁盛店になっています。
店主にとっては、仕事の時間が広がり、仕事帰りのお客様を迎えられるようになったこと。お客様にとっては、夕方以降でも髪を切りに行ける場所ができたこと。小さなソーラーシステムの改善が、ひとつの理容店の仕事を支え、地域の日常を少し変えました。
単に明かりがついたという話ではありません。店主にとっては、仕事の時間が広がり、仕事帰りのお客様を迎えられるようになったこと。お客様にとっては、夕方以降でも髪を切りに行ける場所ができたこと。
小さなソーラーシステムの改善が、ひとつの理容店の仕事を支え、地域の日常を少し変えました。
電気がない地域では、携帯電話の充電場所そのものが小さな生活インフラになる。

同じような悩みは、スマートフォンなどの充電サービスを行う事業者にもありました。
電気がない地域では、携帯電話を充電できる場所は、単なる便利なサービスではありません。家族と連絡を取るため、仕事の連絡をするため、送金サービスを使うため、必要な情報を得るために欠かせない、小さな生活インフラのような存在です。
しかし、その充電サービス事業者も、夕方以降に電気が足りなくなるという課題を抱えていました。地域の人たちが充電を必要とする時間に、十分な電気を供給できない。営業を続けたいのに、電気が続かない。それは、事業者にとって大きな機会損失でした。
そこで、私たちの提案仕様に変更し、発電量、バッテリー容量、消費電力のバランスを見直しました。昼間の太陽光をより効率よく活用できる構成に整えたことで、夜の営業を続けられるようになり、売上も大きく伸びました。
電気が夜まで続くことで、必要としている人に、必要な時間にサービスを届けられるようになる。
それは、システムの性能が改善したというだけではなく、事業そのものの可能性が広がったということでもあります。
クリニックに灯る明かりは、地域の安心につながる

明かりや扇風機が使えることで、クリニックは人々を迎えやすい場所になる。電気は、地域の安心を支える力にもなっている。
南スーダンの地方で、電気が必要なのは理容店や充電サービスだけではありません。
クリニックのように、地域の人々の命や健康に関わる場所でも、電気は大切な役割を果たします。
明かりがあれば、夕方以降でも人を迎えやすくなります。扇風機が使えれば、暑い中で待つ人や働く人の負担も少し軽くなります。携帯電話や小さな機器を充電できれば、連絡や確認作業にも役立ちます。
地方では、大きな病院が近くにない地域もあります。だからこそ、身近なクリニックが安心して利用できる場所であることは、とても重要です。
小さなソーラーシステムが支えているのは、ひとつの建物だけではありません。
そこを訪れる人、働く人、そして地域の安心を少しずつ支えています。
外灯の下で勉強する子ども

半年以上待って、ようやく灯った明かり。その夜、外灯の下では子どもが勉強していた。
ソーラーシステムの導入を待っていたのは、店舗やクリニックだけではありません。
ある家庭では、申し込みから半年以上が過ぎて、ようやくソーラーシステムが取り付けられました。
半年以上待つ。
日本で考えれば、少し長すぎると感じるかもしれません。
しかし、南スーダンの地方では、それでも待ってくれる人たちがいました。
現地にも、ソーラーシステムを販売する事業者は数多くあります。
ただ、導入してもすぐに動かなくなったり、頻繁なバッテリー交換が必要になったりして、予想外の出費が重なる事例も少なくありません。そのため、人々はソーラーシステムの導入にとても慎重です。
それでも、毎日夜まで明かりがついている家があると、情報はすぐに地域へ広がっていきます。
「あの家は、どんなソーラーシステムを使っているのか」
「なぜ、夜まで電気が続いているのか」
そんな口コミから、少しずつ依頼が届くようになりました。
南スーダンでの事業は、最初から十分な資金がある状態で始まったわけではありません。
多くの人が導入しやすいように、分割払いにも対応しながら価格を抑えて進めていたため、一度に設置できる数には限りがありました。
それでも、待ってくれる人がいた。
夜まで明かりが続く暮らしを、自分たちの家にも迎えたいと願う人がいた。
そして、ようやく設置が終わったその夜。
外灯の下で、子どもが勉強している姿がありました。
ソーラーの力を引き出すには、現場を知る力が必要
こうした変化は、ソーラーパネルとバッテリーを置くだけで生まれるものではありません。
特に小さなシステムでは、ソーラーパネルの発電量、バッテリー容量、実際に使う電気の量のバランスが非常に重要になります。
このバランスが崩れると、昼間は使えても、夕方から夜にかけて電気が足りなくなってしまいます。
「ソーラーを入れたのに、夜まで電気が持たない」
南スーダンの地方では、こうした悩みを抱える人たちが少なくありません。原因は、パネルの発電量が足りないのか、バッテリーが十分に充電できていないのか、それとも使っている電気の量が想定より大きいのか。これを正しく判断するには、経験や勘だけでは不十分です。
発電量、消費電力、バッテリーの状態を測定できる機器と、その数値を読み取り、原因を判断できる技術者が必要になります。
辻プラスチック社の制御システムには、発電した電力を効率よく使うためのパススルー技術が使われています。
日中に発電した電気は、まず電気製品へ直接供給され、余った電力だけがバッテリーに蓄えられます。発電量が不足する場合には、バッテリーから必要な分だけ電力を取り出します。
この仕組みにより、昼間の太陽光を効率よく活用しながら、バッテリーへの過度な負担を抑えることができます。バッテリーを守ることは、ソーラーシステムを長く安定して使い続けるために欠かせません。
しかし、その効果を十分に発揮するためにも、現場の状況を正しく理解し、適切に設計・調整できる技術者の存在が欠かせません。
ソーラーの力を本当に引き出すのは、機器だけではありません。
現場を見て、測定し、使う人の仕事や暮らしに合った形へ整える人の力なのです。
現地で支えるパートナーがいるから、技術は生きる
辻プラスチック社のソーラーシステムは、日本から製品を届けるだけでは終わりません。
現地で状況を確認し、課題を見つけ、使う人に合った提案を行うパートナーがいてこそ、その技術は本当の意味で生きていきます。
私たちはアフリカ各国で、現地パートナーとの関係を大切にしながら事業を進めています。国や地域によって、電力事情も、必要とされる用途も、維持管理の方法も異なります。だからこそ、現地を知るパートナーの存在が欠かせません。
今回の南スーダンでも、その役割を担っているのが、私たちの現地ビジネスパートナーです。
彼は、かつて日本で辻プラスチック社からソーラーシステムの技術移転を受けました。そして南スーダンに帰国し、自分の国でその技術を活かしながら、地方の人たちの仕事を支えています。
理容店の夜の営業、充電サービス事業者の売上向上、クリニックの明かり、そして外灯の下で勉強する子ども。
その一つひとつの現場に、彼の丁寧な説明と確実な仕事があります。
ソーラーの力を本当に引き出すには、技術だけでは足りません。
現場を知る力、課題を見つける力、使う人の立場で考える力、そして最後まで責任を持って仕事をするパートナーの存在が必要です。
南スーダンの地方で灯った小さな明かりは、私たちにそのことを教えてくれました。




次回へ:一人の若者が、信頼されるソーラー事業者になるまで
この物語には、もうひとつの大切な続きがあります。
かつて、ソーラーシステムを本格的に触ったこともなかった一人の若者がいました。
彼はABEイニシアティブを通じて日本に来て、辻プラスチック社でソーラーシステムの技術を学びました。
そして南スーダンへ帰国後、その技術を自分の国で活かし始めました。最初は小さな導入から始まり、やがて地方の民間向けシステム、大容量のソーラーシステム案件へと広がっていきます。
丁寧に説明し、確実に施工し、導入後もお客様と向き合う。
その積み重ねが信頼となり、今では南スーダンで知られるソーラーシステム事業者へと成長しました。
次回は、ソーラーを触ったこともなかった一人の若者が、どのようにして南スーダンで信頼される事業者への成長をご紹介します。
